第一章:なぜ筋肉は大きくなるのか

なぜ筋肉は大きくなるのだろうか?
通常の生活をしているだけでは今の筋肉のサイズから大きく筋肉が変わることはない。これは例えば筋肉同化ホルモン剤を使ったとしても運動をしなければ今の筋肉のサイズから大きくなることはありえない。
よく昔から日本で言われているのは「筋肉の超回復」という事が取りざたされる。筋トレをしてしばらく休息すると前よりも筋肉が太くなっている事を「筋肉の超回復」というようだ。
実は「筋グリコーゲンの超回復」という研究結果がどこかで誤認されて日本で筋肉の超回復として広まってしまったらしいのだ。
「筋グリコーゲンの超回復」とは筋肉中のエネルギー源である筋グリコーゲンがトレーニングによって枯渇した後に24時間には以前の筋グリコーゲンの貯蔵量よりも増えている現象の事を指しているのであって筋繊維そのものが太くなる事を指しているわけではない。
もちろん筋グリコーゲンの貯蔵量が増える事自体は悪くはないのだが…
余談であるが筋グリコーゲンが増える事は糖尿病に治療にも応用できる。人間が食べた糖質で使われないであまった糖質は肝臓と筋肉にグリコーゲンという形で貯蔵される。それでもさらに余った糖質は脂肪へ変換されてしまう。
肝臓のグリコーゲン貯蔵量は変えることができないが筋肉には筋グリコーゲンという形で貯蔵されるので筋トレで筋グリコーゲンの貯蔵量を増やすことが出来るのだ。
筋トレを始めた初期段階ではまず中枢神経系の働きによる最大筋力の増加が起こると言われている。通常の生活ではありえない重さの物を扱うことで神経が刺激されることからだ。
これはいわばよく火事場のバカ力と言われるように通常では出せないような力を出せる能力が誰にでもあることからも理解できるだろう。
このような火事場のバカ力の話としてはアメリカ・ジョージア州で実際にあった話がある。「トニー」という青年が車のタイヤ交換をしていたところ、車を持ち上げていたジャッキが外れ、車に挟まれ意識を失ってしまったのだ。
その350kgもある車を普通の主婦である母親が子供を助けたい一心で一人で持ち上げ、助けが来るまでの5分間の間、ずっとそれを支え続けていたそうだ。息子のトニーは意識不明だったものの二日後には無事退院。命に別状はなかったそうだ。まさに愛のなせる技と言えるがこれこそ火事場の馬鹿力と言えるだろう。
この火事場の馬鹿力は1929年にウォルター・B・キャノンによって提唱された反応で闘争・逃走反応と呼ばれるものだと思われる。闘争か逃走か反応、戦うか逃げるか反応ともいい、戦うか逃げるかすくむか反応、過剰反応、急性ストレス反応とされることもある。
キャノンの説によると、動物は恐怖に反応して交感神経系の神経インパルスを発し、自身に戦うか逃げるかを差し迫るという。この反応は、脊椎動物あるいはその他の生物でストレス反応を引き起こす一般適応症候群の初期段階として後に知られるようになった。
恐怖などのストレッサーの刺激が視床下部、下垂体に伝達し副腎皮質刺激ホルモン (ACTH)が分泌され、アドレナリンとコルチゾールが放出されるとその結果以下の変化が起きる 

  • 心臓・肺機能強化(心拍数上昇、血圧上昇、呼吸数上昇、気管拡張など)
  • 体の多くの部分の血管収縮、 筋肉向けの血管拡張
  • 脂肪やグリコーゲン等の代謝エネルギー源の放出
  • 胃などの消化機能阻害・停止
  • 膀胱の弛緩
  • 勃起の阻害
  • 涙腺と唾液腺の阻害
  • 瞳孔散大(散瞳)
  • 聴覚喪失
  • 周辺視野の喪失(視野狭窄)
  • 脊髄反射の脱抑制
  • 振戦(ふるえ)

生理学的機能の変化

  • 体の他の部分に回る血を抑制し、優先的に筋肉に血が供給される。
  • 筋肉に血やエネルギー等を供給するため、心拍や呼吸が早くなり、血圧が高くなる。
  • 怪我した際の血液凝固作用が高まる。
  • 筋肉が、より早く、より強く動けるように緊張状態になる。

このような反応は人間が極限まで追い込まれると起こるわけである。人間の身体的な本当の潜在能力はかなり高いとも言えるのだ。
しかしこのような火事場の馬鹿力を年中発揮していては筋肉は裂け、関節は壊れて体はボロボロになってしまう。
そのため、筋肉や骨の損傷を防ぐために、人間の脳にはあらかじめリミッターがかけられていいて意識的に発揮できるパワーに制限が設けられているようだ。
つまり普段は、自分では意識せずの制限をかけているが緊急事態の場面に遭遇すると、脳の安全装置が解除され、上記のようなホルモンが放出され通常でありえないような身体的な能力が発揮される。
ちなみにカフェインは交感神経を刺激するのでアドレナリンとの相互作用でよりさらに効果がアップする。(カフェインの作用については後述)
このようなこのリミッターを少し解除してやる行為が筋トレではないだろうか?
そしてこのトレーニングを長期間継続して行う事ですることで、はじめて筋断面積の増加が起こるのだ。

筋肉を肥大する仕組みは3種類

その筋肉を肥大する仕組みは3種類ある。
①運動を行ってもすでに成長が終わっている筋細胞は細胞分裂を起こさないが,その大きさが変化する。
②筋細胞の周辺にはサテライト細胞(発生過程で筋芽細胞だったもの)が存在するが、筋肉のエキセントリックな動作によって 筋繊維に損傷が生じ、免疫反応が起こる、その反応が刺激になってサテライト細胞は増殖し,筋細胞と融合して筋肥大を起こす。
※筋肉の動作にはコンセントリックといって筋肉が力を出しながら短くなる動作とエキセントリックといって筋肉が力を出しながら引き伸ばされる動作がある。例えばバーベルカールで言えばバーベルを上に上げるのがコンセトリック、逆にバーベルを下げるのがエキセントリックだ。
③筋力の増加には結びつかないが、トレーニングによって結合組織(筋肉と筋肉の間にある組織)が肥大する。
骨格筋の発達には『成長因子』というものが関与していて、サテライト細胞,筋芽細胞に働く成長因子にはインシュリン様成長因子(IGF-1)・トランスフォーム成長因子(TGF-B)・繊維芽細胞成長因子(FGF)・プロスタグランジンなどが働いている。
これらの成長因子は組織局所で分泌されて自身や周辺の細胞に作用するのでこれまでは、インシュリン,成長ホルモン,テストステロンといったホルモン物質だけが筋肥大をもたらすと以前は考えられていたが、最近の研究によりこれらのホルモンがなくとも前述の成長因子があれば筋肥大が起こることが明らかになってきた。
※テストテロンは24歳をピークに年を重ねる毎に減っていき80歳時には半分まで減ってしまうらしい。
ちなみに、筋繊維の数自体は胎生期にほぼ決まっており、出生後はその持って生まれた筋繊維を太くさせる筋肥大により最大筋力を増大させる必要がある。
筋繊維の種類には白っぽいので白筋と呼ばれている速筋と赤っぽいので赤筋と呼ばれている遅筋がある。
そして筋繊維の肥大は速筋で著しいとされている。
1つの筋の速筋と遅筋の筋繊維の比率は、遺伝的に決定される面が多く、トレーニングによる筋肥大には個人差がある。
そして少なくとも筋を肥大させるには最大筋力の75%以上での収縮を行う必要があると言われている。
また最大筋力の30%以内で連続運動を規則的に行うと筋の酸素消費が増え、筋の代謝の変化が起こり、エネルギー源として炭水化物の代わりに脂肪酸やケトンは効率よく利用するようになるが筋収縮の性質にはあまり変化が起こらないので、筋肥大には繋がらない。
このような理由から筋肥大をさせるには重い重量でのウエイトトレーニングが推奨されているのである。軽い重量で回数を多くしても筋肥大は起こり難いのである。
そこでまず次の章では筋トレを行う上で出てくる基本中の基本的な言葉、セット数とレップ数について説明したいと思う。
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