近年、関連が明らかになってきた糖尿病と歯周病。糖尿病患者は歯周病にかかりやすく、歯周病は糖尿病の「第六の合併症」と呼ばれている。一方で、歯周病が糖尿病を悪化させることも分かってきており、歯科医師と糖尿病を診る内科医との連携が始まっている。 (福沢英里)

愛知県小牧市の女性(70)は、六年前から2型糖尿病の治療を始めた。生活習慣の改善のほか、ブドウ糖の腸への吸収を遅らせる薬を飲んでいる。同時に、かかりつけの歯科医院で定期的に歯周病の治療も受けている。「ひと通り歯を磨いた後、歯間ブラシで汚れを取り除くように気をつけている」と女性は話す。

歯周病の状態を評価するには、歯と歯茎の間の溝「歯周ポケット」の深さを測る。正常な状態は、歯茎がピンクで引き締まっている。しかし、歯茎が赤く腫れて二ミリ以上になると、「歯肉炎」と呼ばれる。

歯周ポケットが深くなり、うみが出たり、口臭がすると「歯周炎」となり、歯を支える骨の破壊が始まる。さらに進むと、骨が溶けて歯が抜け落ちる。歯肉炎は治療すれば元に戻るが、歯周炎では完全な骨の修復はできない。

この女性を治療しているさとう歯科医院(愛知県北名古屋市)の佐藤理之院長(57)は「治療をしても一年もたつと、歯周ポケットが深くなってしまう。糖尿病の患者は、自分のケアだけで維持するのは難しい。定期的に歯科医院を受診してほしい」と強調する。

歯周病と糖尿病には共通点がある。愛知学院大歯学部歯周病科(名古屋市)の野口俊英教授は、初期に顕著な自覚症状がない▽罹患(りかん)率が高い▽生活習慣病▽慢性疾患▽病気の進行のメカニズムが似ている-の五つを挙げる。関連性は疫学調査や動物実験などで明らかにされてきた。「糖尿病を起こしたマウスの方が歯周病の進行が早い。糖尿病を多く発症する米アリゾナ州のピマインディアンを対象にした調査では、歯周病の発症率が糖尿病ではない人に比べて二・六倍高い、といったことも分かっている」と説明する。

歯周病は細菌による感染症。その細菌はどの人の口の中にも存在するが、生活習慣の乱れや加齢、糖尿病などの病気といったさまざまな要因が加わって発症する。

糖尿病が進むと、高血糖状態が続き、体の免疫機能が低下、歯周病を起こす特殊な細菌も増える。また、歯周病がすでに口の中にあって重症化すると、細菌と戦おうと、炎症性細胞から「TNF-α」と呼ばれるタンパク質が大量に出される。このTNF-αがインスリンの働きを悪くして、血糖コントロールも悪化させると考えられている。

歯を失う最大の欠点は、食べ物をかめなくなることだ。糖尿病患者に適した繊維質の豊富な、かみ応えのある食事が取れなくなる。「丈夫な歯でしっかりかめば少ない量で満足感を得られ、肥満の防止にもつながる」と野口教授は話す。

歯科と医科の連携も始まった。愛知県歯科医師会は、糖尿病などの生活習慣病の知識を一般の歯科医師に普及させていくため、二〇〇七年度から研修会を実施。さらに五つのモデル地区を選び、地域に合った具体的な連携方法を検討している。

 モデル地区の基幹病院として地域の歯科医院との連携を担う中部ろうさい病院(名古屋市)は、毎月第三木曜日に、糖尿病の患者を対象とした歯周病の検査を無料で実施。治療が必要な患者がいれば、地域の歯科医院を紹介する。さらに治療の結果を歯科医院から返送してもらう。

〇八年度は三十一人、〇九年度は一月末までに四十二人の患者を紹介した。堀田饒(にぎし)院長は「糖尿病患者に歯周病があると、心筋梗塞(こうそく)や脳卒中のリスクが高まるともいわれ、決して無視はできない。歯周病は歯科医師と糖尿病専門医との連携が欠かせない」と話す。

東京新聞 2010年2月19日